「13歳からのアート思考(著:末永幸歩)」は、時代ともに定義が更新されてきたアートの進展やその裏側にあったそれまでの価値観の破壊を「体感」できる本です。
アートが何たるかの変遷を体感することで、アートが身近に感じられるだけでなく、新しい価値を生むこととはどういうことなのか?を生活やビジネスに生かしていくヒントを与えてくれます。
アートというと、遠い世界に感じる方も多いと思いますが、検索エンジンのGoogleやiPhone、テスラの電気自動車などの時代を変えてきたイノベーションも、それまでの常識をひっくり返すような新しい価値観を提示したという意味で、すべてアートの要素があるといえます。
本書が提供してくれる「体験」を記事内で再現はできませんが、「本を読む時間がとれない」あるいは「既に読んだが全体を振り返りたい」といった方向けに主なポイントをかいつまんでご紹介します。実際にアート思考を「体験」をされたい方はぜひ本書をお手に取ることをおすすめします。
「アート」とは一体何なのか?
絵の見方
◉いきなりですが、まずは上の絵を「鑑賞」してください。
◉とある子供は、この絵を鑑賞していいました。
「かえるがいる」
ーどこに?
「いま水にもぐっている」
◉アートを鑑賞することは、作品や作家や解説文などの情報に「正解」を見つけることではない。「自分だけのものの見方」で「自分なりの答え」を手に入れること。
◉「自分なりの答え」をつくれない人が、果たしてこの激動する世の中で何かを生み出せるでしょうか。
正解がひとつのテストでいい点を取る、とは真逆じゃ。
正解がない中で、いかに自分だけの答えを見つけ出すか、ということなんじゃ。
アーティストとは何をする人?
すべての子どもはアーティストである。
パブロ・ピカソ
問題なのは、どうすれば大人になったときにもアーティストのままでいられるかだ。
◉アーティストとは、上手に絵を書いたり、美しい造形物をつくれる人ではありません。
①「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、
②「自分なりの答え」を生み出し、
③それによって「新たな問い」を生み出す
◉「あなただけのかえる」を見つける方法がアートであり、アート的なものの考え方(アート思考)を実践しているのがアーティストだといえる。
誰かの見方ではなく、自分なりの見方をするというのは言うは易しじゃ。世の中にはこうあるべき、とか、今までこうしてきた、というようなことであふれているからのぉ。
アート思考とは?
◉アートとは例えると植物の「たんぽぽ」に似ている
①「表現の花」地表の花として咲く、作品部分
②「興味のタネ」作品の根本に詰まっている「興味」「好奇心」「疑問」
③「探求の根」上記の「興味のタネ」から伸びる無数の長い探求の過程
3つの中で、この植物の大部分を占めるのは「表現の花」ではなく地中の「探求の根」
◉アートの始点は「②興味のタネ」。そこから「③探求の根」を長い時間をかけて伸ばし、あるときに四方に広がった根たちはどこかでひとつにつながり「①表現の花」として開花する。
◉真のアーティストとは、「地下世界の冒険」に夢中になり、このたんぽぽを育てることに一生を費やす人。
自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探求をし続けること
アーティストをひとことで言うと「探求者」なのかもしれん
対極にいる「花職人」
◉タネや根のない「花だけ」をつくるのが花職人。
◉「他人が定めたゴール」に向かって、技術や知識を獲得し、再生産に励む。
◉花職人が生み出す花は外見的には似ていても、アーティストの花とは本質的に全く異なる。
✔ 誰かに頼まれた「花」ばかりをつくっている
✔ 「探求の根」を伸ばすことを途中で諦めている
✔ 自分の内側にあったはずの「興味のタネ」を放置している
→これでは「自分のものの見方」「自分なりの答え」は手に入りません。変化が早く、見通しのきかない現代社会についていくだけで精一杯に。
ルーチンワークだったり、単に技術を極めて精巧な仕事をこなすのは、アートとは真逆の行為ということじゃ。
今後はさらにロボットやAIが発展してくるから、「自分なりの探求」を必要としない仕事はどんどん減っていくのじゃろう。
では、ここから具体的にアーティストがアート思考でどんな固定概念を破壊し、「自分なりの答え」を手に入れたのかを6作品を通じてみていくことにしましょう。
破壊①:見たままを描かない
「すばらしい絵」とは「目に映るとおりに描かれた絵」
◉しかし、20世紀初頭にかけて普及した「カメラ」が、それまでの絵画のゴールを破壊
見たとおりに描く必要はない
→鼻筋が緑、左右で顔色が違う、髪や眉が青や緑、塗りが雑、男みたい等々
マティスは好きな画家のひとりじゃ。
色彩、バランスがなんともいえんし、見ていて幸せな気分になる。
ただ、この絵が歴史的に功績はとても大きいんじゃろう。
それまでの写真のような写実的な絵とはあまりにかけ離れておる。
どういう絵がいい絵なのか?という価値観を180度変えるようなインパクトがあったはずじゃ。
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破壊②:リアルさを遠近法で表現しない
リアルな絵は遠近法でこそ描ける
遠近法では見えていないところは描けない。
多視点からとらえて再構成したリアルさもある。
→目は正面から、鼻は横からなど、上下左右からの視点をひとつの絵の中に凝縮。
この絵はすごい挑戦状じゃ。
画期的だったのはわかるが、個人的には好きではない・・・。
右側の女性2人の顔とかいったいどうなったらそうなるんじゃ笑。
ただ、この絵がその後の傑作「ゲルニカ」につながっている感じはするのぉ。
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破壊③:具象物を描かない
絵では、世の中に存在する具象物を描く
「なに」といえる具象物を描かなくてもいい。
創造した抽象物を描いてもいい。
鮮やかで音楽的な絵じゃの。
具体的なものを描くのが当たり前だった当時としては大きな驚きだったに違いないわい。
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破壊④:美しくなくていい
アートは見て美しくなければならない
自ら作らなければならない
◉本作は、アートに最も影響を与えた20世紀の作品「第1位」にも選ばれたが、出品当時は「ただの便器」として無審査の公募展だったにも関わらず展示されなかった。デュシャンは、その後アート雑誌に作品の「写真」を掲載したことで世に知られることとなった。
「(便器という)最も愛好される可能性が低いものを選んだのだ。よほどの物好きでもないかぎり、便器を好む人はいないだろう」
マルセル・デュシャン
「私は、美学を失墜させようと考えたのだ」
アートは美しくなくていい
既製品でもいい
偽名の発表でもいい
→アートは「視覚」ではなく「思考」である
なんと過激!
便器を部屋に飾りたいとはまったくもって思わんが、アートの概念をぶっ壊した破壊力はたしかにすさまじいものがあるわい。
作品だけでなく、行動そのものがアートにもなるというのも新鮮じゃ。
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破壊⑤:絵画は「何かのイメージ」以前に「ただの物質」
絵画は何らかのイメージを描く
◉ポロックの作品作りは変わっていた。キャンバスの生地だけを床に広げ、そこに絵の具を撒き散らした。
「絵の具が貼り付いたキャンバス」という物質性そのものが表現
絵の具そのものを見せようとしたというのは発想の転換じゃ
にしても、幼い子どもが描きそうな絵じゃ。
子ども以上のアーティストなんていないのかもしれん。
アートの本場が、それまでのヨーロッパからアメリカ(ニューヨーク)に移ったのも興味深い。芸術と経済成長には密接なつながりがありそうじゃ。
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破壊⑥:既製品・大量生産品もアート
作品にはオリジナリティ(独自性)が必要
◉「ブリロ」は、アメリカで市販されていた食器用洗剤のブランド。スチールウールに洗剤があらかじめ付いている商品のパッケージをそのまま印刷。シルクスクリーンという技法で工場で大量生産するかのようにたくさん作品をつくった。
「アート」と「非アート」を分ける枠組みは存在しない
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まとめ
◉アートの歴史を作った6作品を通して、アートとはなにか?、アート思考とはどういうことか?というのを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
いずれの作品にも共通しているのは、それまで当たり前すぎて考えもしなかったような視点から作品を提示している点でしょう。
もっと他にできるはず、とか、その当時のアートではまだなにかが足りない、とかそれぞれのアーティスト毎に何らかの強い動機や探究心があり、その結果として世の中をあっといわれるような一手を繰り出して来たのでしょう。
興味深いのは、多くの作品が登場時に物議を醸している点です。あまりに常識から逸脱していると人は嫌悪感を抱くものですが、むしろそうしたものにこそ次の扉を開くヒントがあるのかもしれません。
デュシャンが「美しくなくてもいい」と言ったが、ワシは結局は「美」に帰着するのだと思っておる。
ただ、みんなが思う美と新たな美にはつねにギャップがあって、美の範囲や解釈を広げて深めていく活動全てをアートというような気がしておる。
デュシャンの便器は美しいとはあまり思わんが、人々がまったくもって目を背けがちなものやことにも美のタネは埋まっている可能性を提示したという意味で、巨大な問いかけ=アートというのは理解しておる。
常識にとらわれていては美もつまらない。
絵葉書の写真がいくらきれいに撮れていても、思い出としては良くても、美としては退屈極まりないのと同じじゃ。
絵葉書を作る人は、本書でいう花職人なんじゃろう。需要がある以上、花職人が悪いとは思わんし、本人も楽しんでやっていればそれは素晴らしい仕事じゃ。
ただ、絵葉書が美やアートをアップデートすることはなさそうじゃから、そこはアーティストの出番であり、役割なんじゃろうな。