レビュー

NHKの闇『メディアの闇 〜「安倍官邸 VS. NHK」森友取材全真相』レビュー

NHKの実態への関心

以前、レビュー・まとめ記事を書いた「私は真実が知りたい(著:赤木雅子、相澤冬樹)」。

森友事件をめぐり亡くなられた赤木俊夫さんの妻である赤木雅子さんと森友事件をきっかけにNHKを追われた相澤冬樹記者による森友事件真相究明に向けた渾身の一冊だった。



その後、渦中の安倍元首相は統一教会との関係性に対する恨みから銃殺され、森友事件で文書改ざん指示を出した佐川元理財局長は裁判で尋問に立つことなく審議が終了した。真相究明に向けて多くの証拠があがっているのにも関わらず、真実は遠のいていくばかりに思える。

一方、同様に真実がうやむやになりそうな現在進行形の案件が、自民党を中心とした議員と旧統一協会との関係性だ。安倍元首相が亡くなってから間もなくメディアやTwitterなどで統一教会に関する情報が加速度的に増えていったが、1ヶ月経ってもほとんど関連報道をしなかった局がある。

公共放送を謳うNHKだ。

森友事件の特ダネを生んだ相澤冬樹記者を実質的にクビにしたのもNHK。森友事件の報道の裏側をもっと知りたかったということに加え、NHKという放送局の実態にも関心が湧き、手に取ったのが『メディアの闇 「安倍官邸 VS. NHK」森友取材全真相』だ。

政権忖度が根付いたNHK

◉本書では相澤記者の森友記事関連の特ダネ記事がNHKの上層部によって書き換えられたり、証拠が十分揃っているにも関わらずこのままでは記事化はできないと追加取材指示が上から出たりと、NHKの理不尽な姿が描かれている。指示の都度、相澤記者は振り回されるが、当時の安倍政権にとって不利な情報は出さないでおきたいというNHK上層部の意向が裏側にある。現政権に対する過度な忖度文化だ。

◉森友事件の最初の報道は朝日新聞という認知が一般的だろう。だが、本書を読むと相澤記者による取材の方が一歩早かったことが明かされる。しかし、相澤記者によるニュースは関西ローカルNHKでしか放映されなかった。地方のニュースは東京側の判断で全国放送されるかどうかが決定するが、東京がNGを出したのだ。結果、朝日新聞の報道が全国区で最初の報道となってしまう。

相澤冬樹氏(ハフィントンポストより)

NHKクビの原因は特ダネ

◉相澤記者はNHKで長年記者を務めてきた熱血ベテラン記者。「取材は愛だ」をモットーに多くの記事を世に出してきた相澤記者は、森友事件当時は50代半ば。だが、組織でうまく立ち回るタイプではない。なので記者としての手腕は一流でも社内での出世とは無縁。その生き様は最近話題の映画トップガンの主人公マーベリックのようでもある。部下への指導もとても熱い。そんな相澤記者は森友事件で獅子奮迅の大活躍をし特ダネをモノにするが、皮肉なことにそれがきっかけに記者をクビになる。

◉相澤記者がすっぱ抜いたのは、土地売却前に近畿財務局が森友学園にあらかじめ買取限度額を聞き出していたというビッグニュース。国は適正価格で土地を売却する務めがあるにも関わらず、相手の懐事情を事前確認するという、通常ではあり得ないやりとりを実行した。さらに、最終的には森友学園の予算の範囲内で売却額をとどめた。これは、国への背任罪にあたる。それまで「何ら問題ない取引き」との国の主張を大きく覆す事実だ。この特大のネタでも、上司から無理難題の追加取材を突きつけられるが相澤記者はそれをクリア。上司が当時の小池英夫報道局長を説得し、ようやくNHKニュース7で陽の目を見る。

◉ところが、実際の放送を見た小池英夫報道局長は激怒。相澤記者の上司である報道部長に「あなたの将来はないと思え」と伝える。しばらく後、考査部への異動の内示を受けたのは現場の相澤氏。考査部への異動は、記者一筋だった相澤氏にとっては解雇宣告も同然。相澤氏は天職である記者を続けるために転職を決断する。

相澤記者のNHK職員証(Yahooニュースより)

記者という特殊業務

◉本書では、日頃当たり前のように接しているニュースの裏側で動いている記者の汗も知ることができる。記者がどうやって取材をし、どういう流れで記事になっていくのかが事細かく描かれている。世間に特ダネが出るまでの記者の苦労がここまで大変なのかというのは純粋に驚きだった。

◉取材では限られた時間で狙った成果を挙げなくてはならない。特にメディア対応の場のない個人を相手にする場合は突撃取材になることが多い。いきなり見知らぬ記者から声を掛けられても無視されるのがオチだ。会話に持ち込むためにはあらかじめ個人のバックグラウンド調査から入り、その人の興味関心を把握する。取材は対面が基本なので、待ち伏せや尾行も厭わない。さながら捜査のようだ。いざ取材相手をつかまえると、事前情報をもとに地道にしつこく会話を続け、信頼関係構築にまで持っていく。そして取材目的を達成するまで粘る。どんな特ダネでも社内でOKが出なければ報道されない。様々な社内調整が走る。これら多くの壁を超えてようやくエッセンスが凝縮されたニュースとして我々の目に触れる。

◉本書では、森友問題が全国レベルでフォーカスされていく中で、政権の意向に翻弄されるメディアの様子も描かれる。安倍政権としては国の意向で土地が安売りされた報道から世間の目を逸らしたい。そのため、本筋ではない籠池理事長夫妻の補助金詐欺行為に視点をずらそうとする。検察の捜査も官僚の背任罪取り調べから詐欺罪での籠池夫妻検挙へとシフトする。漏れなくその動きに乗るメディア。相澤記者も国の魂胆を察しつつ否応なくこの動きに合わせざるを得なくなる。

カメノヒコ

政権が描いたシナリオにまんまと乗せられるメディア。政権への忖度という側面もあれば、記者の限られた稼働を突かれた政権側の作戦勝ちという面もある。こういう時こそ、メディアの上層部が本丸へのリソース確保を優先的に動くべきじゃと思うのぉ。

公共放送とは何なのか

◉仮に記者が特ダネをつかみ、それが国民の関心事であった場合でも、NHKでは上層部の鶴の一声で特ダネが水の泡となるリスクがある。スポンサーからの資金で運営されている民法ならまだしも、視聴者の受信料で運営されている公共放送のNHKでこのようなことが起きていいのだろうか?ここであらためて公共放送とは何かを見てみたい。

◉NHKの公式サイトのQ&Aで「公共放送とは何か」というページがある。

NHKより

公共放送とは「営利を目的にせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送」とのこと。
ここで疑問がよぎる。「国家の統制からも自立して」とあるが、本書によれば相澤記者が記者をクビにされたのはまさに「国家の統制から自立」した特ダネ記事を書いたからに他ならない。当時の安倍政権にとって不利な情報かつ「公共の福祉」につながる情報を汗水垂らしてモノにしたのが相澤記者だ。それを、小池英夫報道局長(当時)は安倍政権にとってデメリットになる情報だと判断して「あなたの将来はないと思え」と激怒し、あろうことか相澤冬樹氏はその後記者職をクビになる。公共放送としての役割を自ら否定した小池英夫氏は「あなたの将来」より「NHKの将来はないと思え」という考えには及ばなかったのだろうか。

真の公共放送たるニュースを流すとクビを切られる。それが今のNHK。
逆に、相澤記者をクビにしたとされる小池英夫報道局長(当時)はその後順調に社内で出世を続けているようだ。

小池英夫氏(東スポWebより)

NHKが役員人事を発表 新任理事に〝森友問題〟で忖度疑惑の元政治部長
「官邸に忖度して、官邸の意向に沿わないネタはつぶすと週刊誌に報じられ、森友問題では当時、NHKにいた相澤冬樹記者のスクープに圧力をかけたなどとも話題になった」(東スポ記事より)

つまり、NHKでは国家の統制に服従し、時の政権に忖度するような公共放送の方針とは真逆の行動を取る者が重用される。そして、視聴者はそうした公共放送にあるまじき政権プロパガンダをあたかも真実かのように見させられる。嘘のような本当の話だが、戦時中の大本営発表のような世論操作がこの民主主義社会において行われているのだから末恐ろしい。
最近でも、自民党を中心とした議員と統一教会との関係性についてほとんどNHKでは放映されず、Twitterで「#もうNHKに金払わない」がトレンド入りしたばかりだ。

2022年8月5日のTwitter「おすすめ」画面

さらに残念なのは、そんな自民党広告的なニュース番組のためにお金まで払わされているという事実だ。お金を払って、政権が言いたいことだけを垂れ流すテレビ放送を見させられる。こんな馬鹿馬鹿しいことが許されていいのだろうか?

◉NHKの受信料は月々1,225円。名ばかりの公共放送のために、テレビ受信機を持つ全国の世帯という世帯がNHKを見る見ないに関係なく受信契約を強制される。
世界クオリティのドラマや映画を大量に観られるアマゾンプライムビデオは月額500円。業界のトップランナーであるネットフリックスでも月額料金は990円。そのネットフリックスより2割以上も高いNHK受信料1,225円がいかに高いかわかるだろう。年間換算すると14,700円にもなる。しかも20代の若者の約半数はほぼテレビを見ないというから、NHKの恩恵をほとんど受けていなくてもこれだけの金額を払い続けないといけない。

反対に、経営サイドからしたら公共放送は夢のようなビジネスだ。公共放送ビジネスというのは、提供商品(番組)の質が収支に一切影響しないサブスクリプションサービスと言える。こんなおいしい商売が他にあるだろうか?しかもNHKでは年収1千万円超えの職員も多く、高給取りとして有名だ。

その後の相澤記者

◉NHKの考査部への左遷の内示を受けた相澤氏は記者を続けるために転職活動をし、最終的に大阪日日新聞(新日本海新聞社)に記者として入社する。引き続き森友事件を追いかける中で、森友事件の被害者である赤木俊夫さんの妻である赤木雅子さんから接触があり、それが俊夫氏の文書公開という大スクープにつながっていく。

◉その後、大阪日日新聞を退社。現在もフリージャーナリストとして森友事件など社会にインパクトの大きい事件を追いかけ続けている。

カメノヒコ

一匹狼のジャーナリストとして独立した相澤氏。

森友事件は今もってまだ真相は見えていない。
一番の主要関係者だった安倍元首相も銃殺された。

とはいえ、日本を真の民主主義国かつ法治国家に引き戻していく上で、森友事件の真相解明は非常に大きな意味を持つ。赤木雅子氏ともども引き続きの活躍を期待したい。

また、安倍元首相の銃殺を機に統一教会と議員の関係性がクローズアップされている中で、NHKを筆頭にメディア各社の著しくバランスを欠いた報道姿勢が問題になっている。まさしく「メディアの闇」だ。余力があれば、こちらにも相澤記者ならではの鋭いメスを入れていってほしい。